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隠れ里
京の北西、仁和寺から丹波への道を行き、
深い山へ分け入った、とある廃寺。
本堂こそ荒れ果てていますが、かつての僧坊には目張りがされ、
屋根も修繕されています。
寺領内には数十名の者がひっそりと暮らしておりました。
仁王丸となでしこ、守天の三者は、
中納言の姫君の寝顔を見ています。
「わしが思うにこのお姫さん、本当は来たくなかったようだぜ」
「守天、お前に言われずとも分かっている。問題はどうやって邸へ送り返すかだ」
ひと月前ほど前、中納言の姫君がここに来たいと、
切に望んでいるという噂が聞こえてきました。
彼となでしこは今宵、その真偽を確かめようと邸に忍び込んだのです。
「鬼を見てみたい」
姫君はたわい無い好奇心で、
鬼にさらわれることを熱望していました。
ものがたりに出てくるような奇想天外な状況に、
自分も置かれてみたかったのです。
家を出たいと心の底から願ったことは、
一度たりともありません。
なでしこが庭で姫君とそんな話をしているところへ、
守天が飛んで来ました。
おそろしい姿の鬼を見るなり姫君は、
一番鶏もおどろくほどの悲鳴を上げ、気を失って倒れたのです。
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