隠れ里

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そのまま庭に放っておくわけにはいきません。 邸内にはこび込もうと、守天が姫君を小わきに抱えました。 ところが夜半の悲鳴に飛び起きた家人が騒ぎ出し、 姫君が鬼にさらわれると見て、弓を射かけてきました。 仁王丸となでしこは鬼の背に飛びついて、 大急ぎで邸を後にします。 守天は軽くひと飛び。 京の外れの(おぼろ)月に照らし出された小径に着地しましたが、 あわてていたせいか、 姫君を抱えたまま連れて来てしまいました。 「俺はもう、京で仕事を続けられなくなるかもしれん」 仁王丸は頭を抱えました。 彼の生まれた山間の部落には不思議な血筋が伝わっておりまして、 何人かに一人、獣や蟲、鬼の(かたち)をした鬼神を呼び出す異能を持った者が生まれます。 彼らは「異人」と呼ばれ、畏れられておりました。 異人ごとに呼び出すものは決まっております。 部落の長は牛よりも大きな猪、 土蜘蛛(つちぐも)と名乗っていた者は釣鐘ほどもある蜘蛛、 仁王丸は鬼神・守天を呼び出します。 彼らは成人すると出稼ぎに行くのが掟でした。 京人(みやこびと)にやとわれて異能を使う仕事をし、 稼ぎの一部を仕送りして部落を支えているのです。 仁王丸は3年半前に京に来て、貴人の護衛、いさかいの助太刀、 人力ではおよばぬ力仕事などをしておりました。 彼の鬼神は人気があり、当初は引く手あまたでした。
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