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京《みやこ》の小路
淡い月明かりの下、京の小路を往く二つの人影がありました。
男は20歳で名を仁王丸と言います。
女は16歳、名を「なでしこ」と申しました。
「中納言の姫はほんとうに家を出たいと望んでいるのか」
仁王丸の問いかけに、少女は首をかしげます。
「姫君はまだ13と幼い。分別もつかぬはず」
「何を言う。お前だって、初めて会った時は十三だったではないか」
なでしこは細い眉をひそめて仁王丸を見返します。
口を開こうとすると、彼が人差し指を上げ彼女の唇にあてました。
「しっ。人がいる」
小路の辻に男が立っておりました。
烏帽子をかぶり、太刀を佩いています。
分厚い胸板、眼光の鋭さからして、ひとかどの武人であると見受けられました。
彼こそは近ごろ京で名高い頼光四天王の一、渡辺綱です。
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