承 新たなる標的

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仕事を終える。単調な仕事だった。調査の結果を書類にまとめ、それを上司に提出するだけのやろうと思えば小学生でもこなせる仕事だ。唯一頭を使ったと言えば田中との出会いの場であった危険な道は分かりやすいようマーカーを引いたところぐらいだ。頭を使ったと言っても見易くするためには当然の事なのだが。それほど楽な仕事である。それに夕方には帰れることもこの職の強みだ。大変な行事は年に三、四回ほど行われる都内での集会だ。各地域から調査局の人々が集まり、情報交換を行う。それを除けば収入以外に欠点が見当たらないのだ。いや、俺からすれば大金の使うあてもないので欠点はないものと同じことだった。職場を出た俺はふと空を見上げる。日が落ちてきているな。田中の事が気になった。まだバイクを探し続けているのだろうか。俺はこれで今日だけで三度、例の事故現場へ足を運ぶことになる。  目的の場所につく。その場所には誰も居なかったが、少し付近を歩くとどこか望んでいた光景を目の当たりにした。田中はまだ草むらをかき分けバイクを探していたのだ。それもバイクをスリップさせた場所とは離れたところに顔を突っ込んでいる。どうやら田中は粘り強い性格を持っているのかもしれない。それとも亡くしたバイクに深い思い入れでもあるのだろうか。考えている途中、田中が俺の気配に気づいた。 「ああ、中島さん。どうしてここに?」 疑問を持たれるのは当然である。
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