承 新たなる標的

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変に疑われるのも嫌なので即答した。 「仕事の話になってしまいますが、やはりこの道は危険だと思ったのでもう一度確認しに来ましたよ。新たな怪我人でも居たら困りますのでね。自治会の方にも整備が終わるまで危険な道だと警告してもらうようお願いするつもりです。」 俺の言葉を受けて、田中は納得してくれた。田中が居ることは運がよかった。何故なら会話によって、ようやく彼の情報を聞き出せる状況が作ることができたからだ。 「そう言えば田中さんってどこら辺に住んでいるのですか?僕は今職場も近いこの近所に独り暮らししてますよ。」 これなら難なく自然な流れで世間話ができる。街灯も設置されておらず、日が落ちたことで怖いほどに暗くなった夜道に、二人の声だけが溶けていく。 「ああ、僕もこの地域ですよ。向こうの坂を登るんですけど。今は帰る前にバイクを見つけようと思って。無くなっちゃったんですよ。」 方向的には近くないものの、どうやら家はそこまで離れていないようだ。俺はバイクの事に驚いた反応を見せたあと、ひとまずバイクの事を後回しにしてもらうため提案を付け加えた。 「ええ!バイクが無くなったってあんな大きなものが風に運ばれたりするってことは無いでしょう。それは物騒ですね。でも、もう日も暮れてきましたよ。バイクの方は紛失届けでも出して、今日はもう帰りませんか。その脚の傷も癒えませんよ。」 田中は選択に悩んだが、結局渋々という形でその提案に同意した。きっと俺はこの先、ここへ来ることはないだろう。二人は足を揃え、闇の中に消えていく。審判の帰り道だ。今日中に田中を見極めてやろう。
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