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「僕、今一人で暮らして居るのですが、田中さんも独り暮らしですか?なんだか既に奥さんとか居そうですけど。」
無駄を省いて核心に迫る。田中にとっては世間話かもしれないが、俺にとってはこれが重要なのだ。標的に多くの関わりを持たれると手を出そうにも出しづらくなる。回答によっては彼を諦めるしかないのだ。本当なら病院で時間を割かず、すぐにでもこの事を聞きたかった。田中の周囲を明らかにして、浮き彫りにすることができたら今日の手柄は十分だ。
「いや、居ませんよ。僕も同じく独り暮らしですので。独り暮らしする前にね、母が亡くなりまして、父が酷い酒飲みになったのですよ。」
こうなると田中は自分から過去を語ってくれるだろう。喋りのペースが少しだけ落ちた。自分の気持ちと折り合いをつけながら言葉を選んでいるようだ。
「それで僕の方が我慢できず出てきてしまいました。それから父とは音信不通の仲ですよ。僕は僕で今のままでも十分一人でやっていけますし、これでよかったのかもしれませんけどね。」
俺は事情を理解した上で、田中の置かれた現状を喜ばしく思った。憶測だが彼はそこまで人脈が広いものではないのだろう。何故なら家を出て行きついた先がこんな田舎だからだ。他に身を置くところがなかった為にこの場所に来てしまった。今の田中を説明するのにそう考える方が妥当である。
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