承 新たなる標的

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 玄関前にやって来て、俺は足を止めた。田中は俺の外観を眺める。一軒家を持つ俺が独り暮らしをしているとなると、無駄な空間が少なくない。田中は家の大きさから家屋の無意味な広さを感じとったのだろう。 「家の中は綺麗なので安心してください。さあ、行きましょう。」 唐突な俺の声に、家の中の様子をあれこれ想像していた田中は現実に戻された様子だった。玄関を開けると、これまた無駄なものが置かれていない、普通の玄関だ。使わないものは置かれていないので、殺風景とも言える眺めだ。生活感 あまり感じない家内に対して、田中は少し引いた顔で呟く。 「き、綺麗ですね。まるで引っ越したての家ですよ。」 どう返そうか迷ったが、俺は田中を居間の方に誘導しながら答える。その短い移動中にも、あるのはフローリングの廊下とその横の壁だけだった。 「なにか物を置きたいのですけどね。なにを置いていいか分からず、あるのはそこの本棚の本ぐらいですよ。」 居間の壁沿いの本棚には新品同様の綺麗な本がきっちりと並べられている。その様子を見て、また田中は不気味に感じていた。 「あの、本当に上がらせてもらっても大丈夫でした?」 俺は当然だと言わんばかりに頷いた。田中がどう感じているのかはさておき、ようやく落ち着いた。折角の機会なので、田中の事を掘り下げていこうではないか。
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