転 交差する二人

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翌日、俺はまたいつものように地域を歩くと職場に戻り書類をまとめていた。昨日は結局あのあとも他愛もない会話をし、夜遅くになってから二人は別れた。心の距離はグッと近づいただろうが、後半田中の父親の事ばかり考えていた俺にはあまり会話の内容について記憶がない。あれからは特に後々生きてくるような情報も聞き出せずに終わったのだ。とはいっても田中からの警戒心を薄めることができたことに意味はあっただろう。 仕事中も部長が鍵を管理する書類保管室のロッカーが気になって仕方がなかった。久しぶりに仕事に身が入らない。これは俺の勘なのだろう。確証はないがそこに田中の父親を探す手がかりがあるとなにかが告げているようだった。 仕事が終わり、職場の人の姿が全員見えなくなるまで待つことにした。事は慎重に運ばなければ今まで積み上げてきた信用を失うことになる。珍しく職場に残る俺の姿が気になるようで、どうしたんだと訳を聞いてくる。俺は書類をもう少し完成度の高いものに仕上げたいと答えた。今のままでも十分ではないかとさらに追い討ちをかけてきたが、最近弛んでるぞと同僚を追い返した。  
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