転 交差する二人

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インターホンを押すとしばらくして、いかにも寝巻きのだと言わんばかりの男が顔を出す。俺は名前を聞く。 「突然すみません。私は中島凌と申します。あなたは、田中、和哉さんで間違いありませんか?」 男は寝ぼけ眼で俺を見つめ、頭をボリボリと掻いた。そうしてあくびをしたあと、ようやく答えが返ってくる。 「ああ、俺が和哉だ。えーっと、お兄さんはなんの人かな?」 なんだこの男は。明らかに態度が悪い。シラフの状態でこれなら、酒を飲んだときの彼の荒れ模様も想像がつく。深く関わりたくなかったが、田中吉一を知るために近づかなければならない。 「はい、私はこの地域の調査局の者です。本日は家庭調査の為にお伺いさせていただきます。」 俺はサラリと嘘を並べたが、それに対して和哉は驚いていた。今までも調査局なんて名乗る人が家まで来たことが無かったのだろう。 「警察の方ですか?」 俺は笑いながら首を横に振る。確かに調査と聞くと警察を思い浮かべるだろうが、なぜそこまで和哉が焦っているのか。衝撃を受けたのか段々と和哉の目も覚めてきたようで、瞼もキチンと開けてきた。さらに追い討ちをかけるように構わず俺は続けた。 「あの、お話をお伺いしてもよろしいでしょうか?」 和哉はなにか悪いことをしてしまったのではないかと疑うように少し考えたあと、渋々俺を家に迎い入れた。別に話を聞くのは外でも良かったのだが、なにか勘違いしているようで、手厚い対応をしてくれたのが俺にとってはむしろ好都合だった。
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