転 交差する二人

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田中の育った環境を少しは知ることができるだろう。だらしない和哉のイメージに反して、思った以上に玄関と廊下は片付いていた。しかし問題は居間であった。決して散らばってるというわけではない。ただ言えることはビールの空き缶が詰められたごみ袋が多すぎる。長時間嗅いでいたら酔いがまわりそうなくらいに空気が酒で淀んでいる。 「和哉さん、なんでこんなに溜まってるのに捨てないんですか。」 和哉はその言葉を聞くとペコペコと軽く謝りながらゴミ袋を廊下の方へ追いやった。換気の為に部屋の窓も開けてくれた。 「いやいや、スミマセンねえ。捨てようと思うんですけど、すぐにゴミが増えてしまうもんで。」 口には出さなかったが、酒を飲めば空き缶が増えることは当たり前だろう。あまり長居はしたくなかったが、腰を下ろすよう勧められ、俺はひとまずその場に座る。和哉の息子の話を急に聞き出すのことは不自然だろうか。 「和哉さん。ご家族の方は他に居ないのですか?こんなに酒を飲んでいたらなにか言われるでしょう。」 和哉は急に笑い出した。顔色を伺ったがやはり酒を飲んでいる様子ではなかった。本当にこういう人なのだろう。
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