転 交差する二人

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またある休日、日が暮れた頃に俺は和哉の家付近に遠出して来ていた。近ごろ田中本人を忘れがちだが、一応定期的に会ったりもしていて、進展はないが一人の友人として同じような距離感を維持しているという具合だ。そうして今、俺は田中の父、和哉の殺害を企てている。 いつものように帰宅してくる和哉の手には、相変わらずコンビニで買ったと思われる酒の缶が入ったビニールが吊るされていた。さらには幸運なことに、片手に酒を一缶持っている。すでに飲み始めていたようだ。 「和哉さん。何週間かぶりですね。もうお酒呑んでるのですか?」 突然の顔に驚いたのか、目をパチクリさせたあと、手に持っていた酒をいっきに飲みほして、荒々しく俺を家の方に押し込んだ。   「ああ、もう今日の俺は酒を呑むって決めたんだ。来たからにはお前も一緒に呑め。」 今日というよりいつもだろう。既に酔いが回って上機嫌になっていたのか、俺はうまく家に入ることができた。俺も事前に行った酒を用意していた。もちろん飲む用ではなく、飲ませる用だ。そうして俺は市販で売られている薬を多量に摂取させるという犯行に及ぶ。 「いやいや、こんなに酒を持ってるなら隠さずに出してくれよ。わざわざ買う必要もなかったじゃねーかよお。」 ある程度普通の酒を呑ませた。あとは少しずつ薬入りの酒を飲ませていくだけだ。酒で潰れる前に全て与えてやりたい。 「遠慮せずに飲んでください。この前この家に伺ったとき、お酒が目についたので奮発して買ってきてしまいましたよ。折角ですから残さずのんでくださいよ。」 またもや元気いっぱいの返事が返ってくる。俺の肩を叩きながら大きな声で答えるのだ。 「当たり前だろお!遠慮してるのは中島さんじゃないか!どんどん呑めえ。今日も酔い狂おうなあ。」 そうして和哉はなんの疑いもなく、俺の仕込んだ薬入りの酒を飲んでいくのだった。
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