起 歪む悪癖

3/3
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
一人暮らし故に静かな家に帰ると、いち早く風呂に入る。 シャワーから出る水に流され薄まった標的の返り血を眺めると少しばかり後悔した。 もう少し仲を深められたのではないだろうか。まだ、壊す時期には達していなかったのではないかと。 翌日、俺はいつものように職場へ向かう。 あたかも昨日の出来事が無かったかのような平然とした振る舞いで職場につくと、いつも通り上司から仕事を言い渡される。 この市街調査局は近隣の村の様子をメモ書きに残しながら見て回るだけの楽な仕事だ。 別にこれといって特別な扱いを受けることもなく、ごく自然に職場の仲間からは自分の名前、中島凌(なかじましのぐ)からさん付けで呼ばれ中島さんと呼ばれている。 俺は得た情報を細かく記入する習慣があり、そのお陰か調査局から重宝されているようだ。 ただもちろん同僚から慕われているわけでもなく、避けられている訳ではないが会話といったら事務的な内容か、相手の話を相槌を打ちながら聞くだけかのどちらかだった。 仕事に関しては村を歩き回り家屋の様子や家屋を囲う植物の状態、時には訪問などをして住居者の様子まで、村全体の状況を把握できる。 支障なく訪問もこなせる俺にとって、この仕事うってつけの仕事なのかもしれない。 その上、死体の隠し場所としているあの森には市街調査の人間でさえも入ることの無い場所だと仕事を通して知ることができた。 完璧なまでの今のこの環境に俺は満足している。 一通り調査の指示をされた範囲をグルリと歩き回り、長期間に渡る整備の怠りによりヒビの入った道路へ向けて再び足を運んだ。 さて、今日も仕事を始めようか。 心の底の方から込み上げてくる衝動は自分の足を加速させた。俺は欲望に正直だ。 早く新たな標的を探さなければ。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!