転 交差する二人

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勢いよく酒を呑み続ける和哉に効き目が現れてきたのは少し時間が必要だった。流石は酒呑みというべきなのか、まだまだ酒を呑んでも大丈夫だという風に缶に手を伸ばす。そうしてまた新たに缶を開けようとしたとき、ようやく異変が見られた。 「ああ、なんだか頭が痛くなってきちまったよ。こんなんじゃ呑み足りないねーのにな。」 和哉はそう言いつつも床に倒れ込む。まだその手には缶が握られている。 「どういうことだあ。まだこの量じゃ酔い潰れなんてしないぞ俺は。なんでもう体が言うこと聞かねえんだあ。」  長い間酒を呑み続ける生活を送り、自分の酒に対する限界をよく知っているのだろうか。狂っているような執念深さから握られた酒の缶に、痺れる腕を伸ばした。 「勘違いしないでくれよお、中島さんよお。なんだか今日は、調子が悪いんだ。」 そしてまた缶の蓋を開け、酒を飲む。俺はその醜い姿に耐えきれなかった。ここまでして酒に溺れる彼は、明らかに普通ではない。 「和哉さん。どこまであなたは堕ちているのですか。」 和哉にはその言葉も聞こえていないようで、酒を飲む。そして多量に摂取した薬が少しずつ和哉の身体を蝕み始め、和哉は地面を這うような姿勢になった。うまく呂律も回らないようになっている和哉は、ようやく異変に気づいたのか仰向けになってうっすら笑みを浮かべている。
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