転 交差する二人

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「はははは。おかしいな。今日は本当におかしい。中島さん、あんたなにか知ってるか。どうして今日はこんなにも体が動かねえ。」 俺は和哉を憐れに思った。そうして最後の言葉を下すことにした。 「和哉さん。きっとあなたは一人で死んでいく。死んでからも、誰にも気づかれない。全てを捨て、酒に溺れて迎えたものは、ただの孤独でしかなかった。そしてそこから抜け出そうとも思わない。他人に、息子さんに孤独を与えたあなたなら、なおさら。あなたは一人で死ぬべきだ。一番気の毒なのは、息子さんですよ。」 和哉の目からどう映っているのかは分からないが、ボーッと俺のことを眺めた。なにか言いたげだったが、うまく喋れない状況なのだろう。俺は意識のもうろうとしている和哉を置いて家を出る。殺しをするとスッキリするものとばかり思っていたが、俺の心には余計に鬱憤が溜まってしまった。この家にはもう近寄らない方がいいだろう。 帰りの電車の中、田中のことを考えた。仮に父の死を知ったとき、田中はどんな反応をみせるのだろうか。ともあれ、ようやく田中に専念できる。これで田中は独り身だ。
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