転 交差する二人

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以前までの定期的な交際は回数を増し、ほぼ毎日のように田中と顔を合わしていた。そんなある夜、田中は今の現状に対して弱音を吐いた。俺は人間関係において、相手の心の深いところまでたどり着くには、相手の弱き部分までもを知り、そこを少しずつ溶かしていかなければならないと考える。なにも変わらない毎日が自分に迫ってきている。無駄に時間を過ごす日々に、押し潰されそうになるのだと田中は言う。なにか目的も無く、またなにか趣味も持たない人間にとって、自分を生かすために働き、歳を重ねて死んでいく人間の営みは確かに無駄なものだろう。田中には、人生の糧や楽しみがないと言うのだろうか。 「田中さん。人生がつまらないと思ったらそれまでです。生きているうちに楽しみを見つけ、それを中心に生活を送る。それが人生なのではないですか。」 田中の表情は変わらないままだった。滅多に吐かない俺の人生観についての前向きな見解も、田中にはあまり響かないみたいだ。 「つまらないとか楽しいとかそういったもんじゃないんですよ。不安なんです。変わらない日々が待っていると思うと、また明日も今日のような日を繰り返すのだと、死ぬまでこうやって生きていくのだと思うと、怖くてたまりません。」 田中はなにに怯えているというのだ。田中は一人で住んでいける経済力は持ち合わせている。それに伴い地位も安定しているハズで、こんな田舎にその地位を脅かす競争相手も居ないだろう。なにを今さら自分の人生に疑問を持ってしまったのだ。
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