転 交差する二人

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「田中さん。疲れているのではないですか?ずっと独り暮らしをしてきたボロが出てきたみたいですよ。」 田中はまた表情を変えなかった。相当悩んでいるのだろう。 「それなんです。今になって、自分がよく分からない。独りで居る時間が多いほど、自分が分からなくなります。孤独を感じてるだけなのかもしれませんね。回りからの疎外感で、僕は悩んでいた。」 それなら話が早い。単純に田中を一人にさせなければいいのだ。仕事をするよつになったこの歳で、加えてこんな田舎で、プライベートに介入するまでの新しい人間関係を広く築けるとは思わない。俺にとってはそれが強みなのだが。どちらにしても田中の選択肢は二つしか無くなった。 「じゃあ田中さん。今度の連休に、二人で旅行に行きませんか!他人と共に居れば頭抱えて悩む時間なんて無くなるでしょう。」 旅行となれば最低でも丸一日は行動を共にする。二人きりとなれば既に深い仲とも言えるだろう。田中がこの旅行を拒否すればそれまでだが、孤独に苦悩する田中がもしそのような選択をした場合、田中が自ら己の不幸を望んでいるということになる。そうなると人知らず沼にはまるように深く深く沈んでいくことになるだろう。そこで俺が救いの手を差し伸べる。どちらにしても俺のこの行動は田中にとって、ただの知り合いでは無いと感じ取れるハズだ。
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