承 新たなる標的

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 捲れ上がったように段差ができてしまった道路を見て、電話を手に取る。相手は市街調査局だ。 「もしもし、中島です。」 電話に出てきた上司に少し驚いたような大袈裟なリアクションをとられ名前を繰り返された後、すぐに要件を聞かれ俺は淡々と答えた。 「いや、それがですね。地図の南の方に危険な道路がありまして。確かに車が通ることは滅多に無いのですが万が一のことがあるとやはり危ないかなと。」 上司はまるで俺の機嫌をとるかのようにそうですかそうですかと感心の意を露にして、整備士に依頼を頼むという方向で一件は片付いた。 なお、通行止めはしないようなので万が一の場合、ここを通る車が事故を起こさないという保証はどこにもない。 そう思っていながらも自分の事ではないので、こんな不安定な道を選んだ通行者の自業自得かと考え、報告も済ませた俺は職場に戻ろうとした。 道に背を向けたちょうどその時、奇跡的なタイミングで一代のバイクが自分の横を通過していった。 バイクの向かっていった方向は、もちろんあの不安定な道だ。 ガシャアーンと大きなクラッシュ音が立ち、見なくともバイクがスリップし、道の横に弾き飛ばされたのだと分かる状況が自分の背中の方で起こっていることが分かった。 手助けしようか悩んだ。もしも話しかければ少しの拘束時間があるだろう。 俺は念のため振り返ってみた。 既に道の端に倒れ込んだ運転手は装着していたヘルメットを外していた。 見ると同じ歳ぐらいの男性であった。 そしてその様子に俺は目を奪われてしまう。 上半身だけを少し起こした体勢で、痛みを堪えているのか、足を抑えながらもがいていたのだ。 本能が俺に囁きかけるように、俺は心臓の鼓動に突然の高鳴りを覚えた。 ああ、ここは話しかけるべきだ。話しかけて親睦を深めるんだ。 今度は時期を見誤らない。最高潮までこの男性との仲を極め、最後はこの手で看取ってやろう。 俺の足は無意識のうちに男性の下へ向かっていた。
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