承 新たなる標的

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「大丈夫ですか?」 話しかけたがどう見ても大丈夫ではない様子だった。むしろ右足を抑えて痛みを堪えている様子だ。しかし男性は助けを必要としていないような素振りで首を縦に振った。 「大丈夫ですよ。ちょっと事故を起こしてしまっただけです。」 明かに大丈夫ではない。痛みのあまり立てずに居るその男性が、ちょっとどころの状況ではないことは一目瞭然だ。俺はこの男性の思考を覗き見た。きっとこの人は他者に心配をかけたくないのだろう。当たりを見つけたかもしれない。 「いや、よろしかったら病院まで連れていきますよ?ちょうどそちらの方へ向かいますから。」 自分も同じ方向へ目的があるという程で男性へ問いかけをした。これなら無理なく承諾してくれるだろう。男性は少し考えた後、申し訳なさそうに謝りながらこの提案に同意した。  やがてまた沈黙の時間が続く。助けの求めない男性は一人で立ち上がる事が出来なかったのだ。俺は無言のまま立とうと苦戦する男性の姿を眺めてしまっていた。しかし府とした瞬間我に戻り、自分から手を差し伸べることができた。 「肩かしますよ。目の前で事故に遇った人を見て見ぬふりはできないんでね。」 男性は加減しながら俺の手を引いて、ゆっくりとその場に立ち上がった。右足を庇うばかり、腰は少し前に倒され、身体の左の方へ重心が寄っていたが、俺が支えになったお陰で、なんとか歩くことができた。置き去りにされたバイクを横目にその地点を通過すると、俺は男性へ問い掛けた。 「バイクはいいんですか?なんなら一緒に運びますけど。」 念のためだ。問いかけもせずその場のバイクを運ぶこともできた。しかしあくまでも俺はこの男性が俺に合うかどうかを見極めたかった。 「ああ、いいですよ。後で取りに来ればいいことですし。」 俺は了解したように分かりましたと伝えると、言われた通りバイクをそのままにして病院へ向かった。後で取りに来ればいいという咄嗟の言い分の裏には、俺に余計な心配をかけたくないという想いが込められているのだと察した。申し訳なさそうに体重を預ける様子を見ればすぐに理解できることだ。まさかこんな完璧なまでの人間と出会えるとは思わなかった。 俺の欲望を消化する為には、この男性が必要不可欠だ。この男性こそ俺に相応しい。
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