承 新たなる標的

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村の中心部に位置する病院は名目上病院とされているが、実際には村の医者が集まり機能しているだけの普通の一軒家である。病院の前に着くと、男性は手を伸ばして入り口の扉を開いた。  受け付けのような場所は設けられておらず、玄関から前に進むとカーテンで区切られた診察室がすぐに見える。すぐにそちらの方から白衣を着た医者が顔を覗かせた。 「こんにちは。怪我ですか?」 医者は隣の男性の姿から、椅子に座るよう促しながら質問した。脚を抱えながら、男性は答える。 「はい。バイクの事故で怪我をしてしまいまして。」 その言葉を聞いた医者は、今度は俺の方に顔を向ける。咄嗟に男性が医者の方へ言葉を付け足す。 「この方はその場に出会しただけなのですが、ここまで送ってくれたんです。感謝してます。」 医者は事情を少し理解したようで、その後少しばかりことの成り行きを聞いたあと、書類の敷き詰められた棚から用紙を一枚取り出して男性の名前を尋ねた。そう言えば俺も男性の名前を知らない。質問に対して男性は悪いことをしたかの様子で決まり悪そうに答える。 「これは申し遅れました。田中吉一(たなかよしかず)です。ここまで送ってもらったのに名前も告げずに申し訳ないです。」 医者だけでなく俺にもなぜか謝罪する。俺はこの田中という男の物腰の低さに疑問を抱いた。なにがそこまで彼をそうさせているのだろう。そうして俺は答えを求めた。
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