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ツララと出会ったのは半年程前の事だ。僕が見張りを終えて帰り道を歩いていた時のこと、彼女はなぜか雪の積もった海辺に倒れていた。慌てて家に運び、母と介抱した。彼女の顔色は雪よりも白く、僕たちはすでに手遅れかと思った。
でもツララは一日で目を覚ました。ツララを保護したことを町長に話すと恐らく近くの島から出た船が事故に会い、海に流されたのだろうと渋い顔で言われた。
ツララは歓迎されなかった。
世界のほとんどは一年中灰色の雪に包まれているので、食べ物は十分にあるとは言えない。ご先祖様のそのまたご先祖様の頃は世界中に食べ物や娯楽があふれていたという。でも今は天国ぐらいにしかそんな場所は存在しないだろう。だからこの町は一年の食料を計算し町民全員に行き届くように計画されて僕たちは何とか生きている。僕と母の選択肢は2つしかなかった。ツララを見捨てる。自分たちの食料を削り、彼女を迎え入れる。
僕たちの答えはすでに決まっていた。こんな冷たい世界だからこそ、人間だけは温かくなければいけない。
目を覚ました少女からツララという名前を聞き、温かい鮭のスープを与えた。それから僕はこの町をツララに案内した。彼女はこの町にある物全てに対しものすごく興味を示した。煌々と光る町で一番大きな塔、灼熱の熱気を持った鉄工場、そしてその鉄を加工し、農具や日用品を作る職人工房もまるで初めて見るかのように楽しそうにより一層目をキラキラさせて見ていた。案内している間は常に会話と笑いが僕たちの間からは消えなかった。僕とツララが仲良くなるのに時間はかからなかった。
ツララの銀髪が振り子のように動く様を見ながら、そんなことを思い出した。町の中央に建っている発電所を通り過ぎる。するとそれまで楽しそうに鼻歌を鳴らしていたツララの表情が強張った。
「まだ、この発電所が嫌いなのかい?」
僕が尋ねるとツララはうつむきながら「嫌いじゃないよ、ただ心配なだけ」と呟いた。
この発電所はいつも黒い煙を吐いている。町すべての電力を賄っているのだから仕方がない。そういながら黒い煙が空を覆っている雲に吸い込まれていくのを見上げた。
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