ツララの誘いと鮭のスープ

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ツララの誘いと鮭のスープ

  家に着くと母親が僕の大好物の鮭のスープを三人分作ってくれていた。心なしかいつもより量が多い気がする。ほわほわと湯気の立ったスープをゆっくり飲みながらツララが聞いてくる。 「ねえ、セツは16歳になったから好きな事をしてもいいんだよね?」 そうだよと僕は答える。この僕が生まれ育った町は16歳のなるとこの町で生きる権利を選択できるようになる。この町で何か職業をもらい、町の一員といて養われる側から養う側へとなる。 もう一つの選択肢はこの町を出て、この寒い世界を旅し、自分自身で考え、選択肢、生きることだ。  この制度は20年ほど前、ここで起きた人口爆発がきっかけでこの掟ができた。当初は食糧難を避けるために町の役に立たない人材を外に出すためのものだったのだが、今も続いている。 といってもここ数年16歳になったもので外に出たものはいない。    そんな事情を知るはずもないツララは自由に生きれることをいいことだと思い無邪気に質問を投げかけてくる。 「ねえ、セツは何がしたいの?」 しばし、母がいることで身と心を固くはしたものを僕は自分の思いを素直に口にした。 「僕はこの町を出たい。出てこの寒い世界のすべてを見て、体験し、知りたい。」 それすっごい素敵ねとツララが笑う。そんなツララの温かい笑みに先まであった緊張感は和らぎいだ。 「ツララは他の町に行ったことがあるの?」  「ええ、あるわよ」 少し自慢げな顔でツララは答える。 「もしかしてこの町の近くの町とか?」 「いいえ、この近くの町には行ったことはないわ。このあたりではここが初めてよ。でも、三年前に行った南の町は凄く素敵だったわ」  僕は何が素敵だったのか尋ねる。 「まず、なんと言っても溢れんばかりの太陽ね!ここより少し温かいの!それから果物もとっても美味しかったわ。 まるで太陽の光を閉じ込めたみたいにつピカピカしていて甘いの!」 自分で言っていて思い出したのかじゅるりと涎を服の袖で拭う。 「いいなあ。僕もそこに行ってみたい」 「なによ。行きたいなら行けばいいじゃない。一緒に行きましょうよ!」 そんなツララの誘いは僕にとってどんなご馳走よりも魅力的だった。それから僕はツララの今まで訪れた場所を聞いた。
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