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僕と町と黒煙
「あなたさえ良ければ一緒にこのお掃除の旅を手伝ってくれない?」
僕が目を覚ましてもツララの声が耳に残っている。
ツララと外の世界を見る。まだ彼女と出会ってほんの少ししか時間はたっていないけど、きっとその通りになったら楽しい旅になるんだろう。なぜだかそんな気がする。
僕はツララが寝ているのを確認しその安らかな寝顔を壊さない様ゆっくりと立ち上がる。
「行ってくるよ」
顔を伏せたまま入り口に立つ母親は何も言わずに僕を抱きしめた。母の温かさの残りを感じながら灰色の雪が降る中町長の家へ向かう。
16歳になった僕はこの大人しか参加できない会合に初めて参加する。今後この町をどうするのか、どう皆を養うのか、そんな未来を皆で決める場所だ。
そしてそれとは別に初めて参加するものにとっては一生を決める場所である。
町のために生きるか。自分のために生きるか。その選択を皆に伝える。
集会所の扉を開けると町の男たちはすでに集まっていた。初めてこの場に参加する僕に大人たちは口々にお祝いの言葉をくれる。みんなが集まったのを確認すると町の長は口を開いた。
「さて、主役も揃ったことだ。どれセツに酒を注いでやってくれ。」
そう町長が声をかけるとすでに用意されていたコップが運ばれてきた。
「では、セツが大人になったことに乾杯!」
乾杯!と周りの大人達の声が続く。僕もそれに合わせて小さく乾杯の声を上げる。
うまい!久々の酒は最高だ!あんなに小さかったセツがもう16かぁ。
周りの大人達は騒ぎながらおいしそうに酒を飲む。
僕はじっとコップに入った紅色の液体を見つめた。少し口に含んだ途端、塞き止められた水があふれ出るように苦みが口に広がった。思わず口に含んだ酒を吐き出すと、もう見慣れた光景なのだろう。大人たちは優しい笑みを浮かべる。
ゆったりとした時間が流れる。そんな雰囲気を変えたのは町長の一言だった。
「さて、セツよ。おまえさんの選択を聞こうか。」
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