消えた想い

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それから数日後… まもなく日が暮れようと太陽が水平線に近づき、市場に向ったアナトの帰りを待ちながら、弓や剣の手入れをしていた時だった…。 ダゴンがひどく慌ててやって来て、 「バアル!、バアル!!、バアルは居るか!!!」 「ダゴン、慌ててどうしたの?」 「はあ、はあ、はあ、はあ…アナトが龍神に拐われた!!」 「はぁ?…」 状況を理解できなくて、もう一度ダゴンに尋ねる。 「すまない、一体何が起きたの?」 「何を呑気にしていやがるっ!」 「アナトが、龍神ヤム=ナハルに拐われちまったんだよ! 早くしないと奴の生贄にされちまう!!!」 「何だって?!!」 「一体どういう事か説明しろ!ダゴンっっ!!」 ようやく事の重大さを理解した僕は、一気にダゴンに詰め寄る。 元々山と海に恵まれたこの村は、毎年初夏に、海が荒れずに無事に漁が出来るようにと、村の乙女を龍神ヤム=ナハルに生贄として捧げてきたらしい。 しかし時代の流れから、木で作った乙女の人形と供物で、海の安全を祈願をする様に移り変わったのだという。 だが… 龍神ヤム=ナハルは、決してそれを良しとしてはいなかった! 長年に渡り積もりに積もった不満と怒りが… 遂に!自ら生贄を狩る事にした!! その獲物となったのがアナトだった!!! 全てを理解した瞬間、 またもや白い霧が頭の中を埋め尽くし、激しい頭痛が僕を襲った。 心臓も、ドクン、ドクン、ドクンドクンドクンドクン!! と激しさを増す中で… …オモイダセ、オモイダセ!オモイダセ!!オモイダセ!!! また誰かが、直接僕の頭の中に進入してくる! 「うるさい!うるさいっっ!!」 頭を抑えながら、気が付くとそう叫んでいた。 それを見たダゴンが心配そうに 「どうした?大丈夫か?」 と、僕を気遣う。 自分だって、アナトを娘の様に思って心配しているのに! 「ゴメン、もう大丈夫! …急いでアナトを助けに行こう!!!」 海に向かって走り始めた僕を、引き止める様に… 「おい!バアル!」 「ん?」 「お前の左腕…???」
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