第1章

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ぼーっと佇む私に 「どうしたんです浅井先生? やっぱりダメなんて言わないでくださいよ。」 「あ、はは、そんなこと言わないですよ。」 我に返って咄嗟に溢れそうになる涙を手の甲でサッと拭って顔を上げた。 泣くな私、高村くんはもう別れた人なんだから彼女がいて当たり前なんだから 大丈夫、うん、多分笑えてるよね 「何階建て?」 「五階建てです。」 「最上階じゃない。」 「採用が決まって不動産屋に駆け込んだら、丁度最上階の角部屋が空いてたので…。」 「いいですね、最上階の角部屋、最高じゃないですか。」 「ワンルームマンションだから狭いですよ。期待はずれだと思います。」 部屋の鍵を開けて二人を迎え入れ奥の部屋に入って貰った。 「へぇー、物が無くて広いですね。」 「必要最小限のものだけなんです。殺風景でしょ? 座布団やソファーは無いんです。ベッドか座椅子に適当に座ってください。コーヒーでいいですか?」 「コーヒーをお願いします。」 「私もコーヒーで。」 「わかりました。入れてきますから、適当に寛いでください。」 お湯を沸かしながら、買い置きの一杯用のドリップコーヒーを取りだし、マグカップに取り付けた。
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