第1章

28/33
前へ
/33ページ
次へ
「久しぶりだね夕貴ちゃん。どうしてたの? モデルは辞めたんだろ?」 「ご無沙汰しています。なかなか来れなくてごめんなさい。 別のことをしてみたくなって、今は国語の教師をしています。」 「へー、先生をしてるの? 偉いなー、仕事をしながらちゃんと勉強してたんだね。」 「偉いだなんて、ずっとモデルでやっていく自信がながっただけです。」 「レイはまだまだ世間に求められているのに?」 「求められてる?」 「雑誌の編集部が言ってたよ、レイが見たいって意見が沢山寄せられてるんだって。 夕貴ちゃんが出たときは雑誌の購買数が激増してたんだ。 夕貴ちゃんにはファンが付いてたんだよ。」 「そうなんですかね。」 「そうだよ、レイのオファーがいっぱい来てるって野村くんがボヤいてたよ。 もうやる気はないの?」 野村くんは私の元マネージャーのことだ。 野村さんにはいろいろ迷惑をかけてしまった。 教員研修の時の仕事の調整は大変だったと思う。 それに、突然モデルを辞めるといった私に、何度も続けるように説得してくれたのに、私は譲らなかった。 仕事も増えてきて、このままだとまた高村くんと一緒の仕事になるような気がして… 迷惑をかけないうちに辞めたかった。 モデルは嫌いじゃない。ライトを浴びながらレンズを向けられ私を誉めちぎる言葉のシャワーを浴びてると、自信がわいてくる。 私は誰よりも綺麗なんだと錯覚させられる。 表情まで変わってくるのがわかる。堂々とカメラの前に立ち、求められるポーズや表情を作っていく自分が誇らしくなる。 それでも、やっぱり高村くんのことを考えると続ける気持ちにはならなかった。 教師はどうしてもやりたいと思って研修を受けた訳じゃなく、選択肢に入れてただけだった。 それでも研修に行ったとき、生徒たちの弾けるような笑顔を見て、私が学生時代に経験した後悔を彼らには感じてほしくないと研修の時に思った。 何とか彼らが迷ったとき、苦しいときに私の経験を伝えたい 私のような後悔をしてほしくない。 そう思ったんだ。 教師を始めたばかりで戻るなんて考えられない。 私にファンがいる 店長の言葉に嬉しい気持ちが湧き上がったけれど、化粧で別人に化けた私が求められてるだと思うと複雑な気持ちだ。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加