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街の人達が罵声を浴びせていた。
それはそれは大きな声で、書くことさえ躊躇われるような言葉だった。
街の人達に囲まれていたのは敵国の兵士だった。
戦闘機からパラシュートで脱出したようだ。
軍服はボロボロと破けていて、顔は殴られたのか腫れ上がり、鼻や口からは血が出ていた。
街の人の仕業だろう。
殴り殺そうとしているのが幼い僕にも分かってしまう。
「辞めてください!僕はこの人を助けます!」
僕は街の人達に向けて大きな声で叫んだ。
人々は静まり返り、やがて僕に諭すように言ってくる。
「ぼく。いいかい、この人は敵の兵隊さんなんだ。今、殺しておかないと今度は私たちの誰かが殺されてしまう。守るためには殺すしかないんだよ。」
「違います!その人は悪魔に取り憑かれているだけです。僕は医者です!医療の心得があります!お願いです。僕にその人を治させてください!」
街の人は僕が何を言っているのか分からないようで困った顔をしながらお互いに話し出した。
僕はそんなことにも目をくれず、敵の兵隊に話しかける。
「今助けますから、大丈夫ですよ!」
兵隊さんは声にならないような声でお礼を言ってきた。
僕は医者だ。誰だって治してみせる。
「誰か鋭いナイフのようなものを持っていませんか?」
僕は街の人に向き直り、必死に探した。
すると一人の若者が、これくらいしかないが、と不満そうに果物ナイフを渡してくれた。
「ありがとうございます!これで人を救えます!」
僕は兵隊さんに見つめ、「大丈夫ですからね。」と笑って見せた。
兵隊さんも微かに笑ったようで顔が動いたのがわかった。
医者としては初めてのきちんとした医療行為。
緊張するがやるしかないのだ。
ここに医者は僕だけなのだから。
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