1人が本棚に入れています
本棚に追加
果物ナイフをグッと握りしめ、僕は兵隊さんの首に縦に刺した。
兵隊さんはそのまま口から血の噴水を出して、手足を暴れさせた。
街の人達は顔をひきつり、その光景に何も言えないようだった。
医療行為は初めて見るのかな。
そんなことを思いながら僕はナイフを思い切り下に引き落とす。
皮膚が切れ、血潮が溢れ出ては止まらない。
血が僕の目に入って医療の邪魔をする。
兵隊さんの体の中がよく見える。
このどこかに悪魔がいるのだ。
人を殺す悪魔が宿っているのだ。
兵隊さんの体の中に僕は手を入れ探した。
面倒な臓器はそこらの道端に投げ捨てた。
なんとも言えない悪臭の中で僕は必死に悪魔を探す。
だが、探せどもそれらしいものはなかった。
仕方なく諦めると街の人達が僕を取り囲んでいた。
その顔は恐怖に染まっていて、とてもじゃないが普段とは何が違っていた。
「お前は悪魔だ。自分が何をしたか分かってるのか」
誰かがそう叫ぶ。
僕はそれがどういうことか分からずに、自分の手や体を見た。
血が乾き、黒く僕を染め上げた。
目だけが白く浮き出ているのだろうか。
それとも血が入ってしまったから赤くなっているのだろうか。
もしかしたら、血が乾いて目まで黒くなっているのかもしれない。
憎悪に囲まれてしまったようだ。
だが僕は医者だ。誰だって治してみせる。
どんな病気でも、必ず。
街の人が僕を押さえつけ地面に押し倒す。
そんな中で僕は、ひとつ分かった。
「あぁ、悪魔は医者の中にいたのか。」
それが僕の最後の言葉になった。
最初のコメントを投稿しよう!