月の海は兎の顔

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夢かと、どこかピントのぼやけた意識で思う。 目の前には青い球体。 陸地三割、海面七割の水の惑星が真っ暗な宇宙の中で静かに青く輝いている。 いつ見た光景だろう。 昔見た図鑑の絵だろうか。 無重力に漂い、酸素不足で朦朧としてまどろみの中に落ちて行く意識に願う。 もう少し、この光景を見せていてと。 ふと足元に目を向ければ、クレーターだらけの灰色の衛星の一部が見える。 ああ私は、幼かった頃の視点でテレビを見て感動した地球を見ているのか。 「やあ、お嬢さん。こんばんは、良い地球が見えますね」 落ち着いた低い声に振り向くと、そこには明らかに白人と分かる出で立ちの紳士がにこやかに浮かんで立っていた。 紳士の後ろには、地球よりも遥かに大きな月の一部が見えている。 ゆっくりと天を駆け上がり、視界いっぱいに広がって行く。 「今晩は」 吐息を吐く様な静かな挨拶を返し、隣に並ぶ紳士と共に地球を眺めた。 夢ならではの都合の良さを感じながらも、この人はどこで見た人なのだろうとも思う。 「綺麗ですよね」 「はい、綺麗です」 穏やかになれる声に、どんな人生を送った人なのかと疑問が浮かぶ。 きっと私と違い、素敵な時間を重ねて来たのだろう。 こんなにも綺麗なものを見ながら、私の中には汚い感情が沸き起こる。どうしてあんなに綺麗な星に住んで居ながら、醜い感情を押し隠す群れの中に生きていたのだろうと。
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