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あなたに会いたい
海が見える。
遠く霞んだ先には、おぼろげに分かる線が一筋。海と空を二分する波光がきらめいていた。
どこの海だろう。
かつて、ゼロ型戦闘機のコクピットから見た海よりも色濃く、そして泰然としているように見えた。
パノラマに見通せる砂浜には誰も居なかった。深く沈んだ裸足は、しっかりと白い砂を捉えている。砂浜がこんなにさらさらで柔らかかったことをしばらく忘れていた。
それにしても僕はいつ死んだのだろう?
分からない。
遠い昔…時が経ちすぎて色々なことを忘れてしまった。こうしている間も、次から次へと忘れていく。かつて僕を愛してくれた人がいて、悲しい別れをした事さえも。
せめて僕が何故ここにいるか、誰か教えてくれないだろうか。
砂浜に落ちている貝の欠片に気がつく。その欠片は、僕を誘っているかのように波打ち際まで転がっていた。一つ拾ってみては、また次のも拾ってみる。
ちゃんと歩けた。手を使って拾えてもいる。バラバラに破壊されたはずの手足が、再び自由に動かせていることに喜びを感じずにはいられなかった。
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