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03.
週明けに迫った北海道出張の資料の準備もあいまって、終電に身体を滑り込ませるのがやっとだった。一気に流し込んだエナジードリンクのせいか、電車の窓を流れる深夜の街並みは、やけに冴え渡って美しかった。
「頼んでたブーケ、そろそろできた?」
スマートフォンアプリのトーク画面には、桃香からのメッセージが届いていた。
フラワーアレンジメントを習い始めたのは社会人になってからだ。ここ最近は教室に通うこともままならないくらいに仕事が立て込んでいたものの、以前SNSにあげた造花で作ったブーケの画像を、桃香は忘れていなかったらしい。
「リューイチくんと、結婚するんだけど」
そんな一文だけの結婚報告が届いたのは、私がようやく彼のいない日常に慣れてきた昼下がりだった。既読をつけてしまった画面には、返信を打つ間もなく「結婚式のブーケ、頼める?」と追撃のメッセージが届いた。
桃香から語られる彼の名前は、知らない記号のようだった。指先を右往左往させている間に、ダメ押しとばかりにかかってきた電話口で、桃香は「お願い」と甘えた声をだした。
「だけど、……隆一も、嫌じゃないかな」
「どうして? きっとリューイチくんも喜ぶよ。あず、お願い。祝ってよ」
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