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 見知らぬ幸せそうな花嫁が、介添人に手をひかれて歩いていく。幸せを祝う歓声も、始まらない式への戸惑いも、ざわめきは空気の外側にあった。頭上に吊るされたシャンデリアが今ここで割れてしまったらどうなるかと、私は途方もないことを考える。  今、ここで、いっそ。彼の隣にいるこの瞬間に、世界が終わってしまえばいい。 「そのスーツケース、これから仕事?」 「うん。明日から、北海道に。二泊」 「へえ。いいな」  彼は私を一気に現実に引き戻すと、「ごめんな」という知らない単語を口にした。 「忙しいのに都合つけてくれたんだろ? 今日だって桃香のワガママでどうしても出てくれって言われたんだろ? 相手に強く出られると断れないところ、あずみらしい。  本当に……、ごめん」  私に謝るこの人は、一体誰なんだろう。  どこまでも浅はかで、自分本位。  そんな彼しか、私は知らない。 「ありがとう」 「え?」 「こんな形でも、もう一度。あずみに会えて。……よかった」  もう一度会うことがあれば、罵倒の一つでもしてやろうかと思っていたはずなのに。心臓がゆっくりと溶解していく痛みに、私は唇を噛みしめる。 「それじゃ」と別れを告げた彼の背中が、ざわめきの中に消えていく。長い廊下にひとり放り出された私は、行き交う式場スタッフや参列客にまみれて、長い間そこに立ち尽くしていた。
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