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「あずみは……悲しくないの?」  この期に及んで、彼は傷ついた顔を見せた。「別れたがっていたのは実は私の方だったのだ」と私の言葉を勝手に解析して、その結果にホッとして。そして「傷ついた自分」を盾に、ためらっていた刃を今度は勢いよく振り下ろして、突き放す。 「あずみは、強いね」  そのくせ、私が泣いたら、どうしていいかわからずに、きっと声を荒らげるのだ。「そんなのあずみらしくない」と不機嫌になる彼がいとも簡単に想像できた。  それでも彼の傷ついたような顔に、どうしようもなく胸が痛む。彼の浅はかさも幼さも、今この瞬間でさえ可愛いと思う。愛しいと思う。  水圧で全身が潰れていく。気を抜くと悲鳴をあげてしまいそうだった。叶うなら、彼の不安そうな顔に「私は大丈夫」と頭を大きく撫でてやりたかった。彼を抱きしめて、その匂いを胸いっぱいに吸い込めたらどれだけ幸せだろう。 ……だけどそれをしたら、私は簡単に縋(すが)ってしまう。 「やめて」「いかないで」「ここにいて」と。
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