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海へと続く石段を降りる足音は、私ひとり分のものが響いた。次第に目が慣れてきたとはいえ、暗闇の中を歩くのは心もとなく、デコボコした石段に足が何度かよろめいた。幽霊よりも、生身の人間の方が余程恐い。後ろに誰か立っていたらと、心細さも手伝って何度か後ろを振り返った。
砂浜の先には凪いだ海が広がっていた。不思議なことに、おいでおいでと誰かが優しく招いているような穏やかな波の中に飛び込もうという衝動は湧いてこなかった。
二十七歳、決してもう若くはない。彼との未来が終(つい)えて、十分な悲劇の最中にいるというのに、まるで身体がゼラチン質のクラゲになったかのように、ふわふわと漂うような感覚はどこまでも現実味がなかった。
砂浜を歩くと、パンプスの中に細かな砂が入り込んでザラザラと足を噛んだ。耐えきれなくなってパンプスを脱いで手に持つと、今度は小さな貝殻の欠片がストッキング越しに足の裏を刺した。
そんな簡単な分別もつかないくらいには、私は十分動揺していた。
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