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結局海を見ていたのは五分程度だった。
『HOTEL Sea Side』。彼と二人きりでここに来た時に利用した、海沿いの古びたラブホテルを私はその日の宿として選んだ。
天井一面に貼られた安っぽい鏡から、私が私を見下ろしていた。男性と付き合うのは彼が初めてだったから、初めて入ったラブホテルは、「イケナイこと」をしている自分に心臓がやけに早く回転した。
どこに視線を置いたらいいかすら分からずにどぎまぎしていた私が、今日は一人で七色のLEDライトが光るバスタブにお湯を張っている。笑ってしまう。小さな冷蔵庫から取り出した缶ビールのプルトップをひくと、細かな泡が飲みくちに溢れた。
ゼミ仲間での弾丸旅行を言い出したのはお祭り好きの吉田だった。日中はしゃいだ砂浜は、夜になると私たち以外の人影はなかった。車のトランクに積んできた手持ち花火を次々と消費していく中、吉田は命を終えた手持ち花火をバケツに浸しながら、「怪談話をしよう」と提案した。雰囲気が出るという理由で、線香花火をぶら下げてから、ひと回り、ふた回り。私も心霊番組の内容を思い出しながら五つくらいは話したと思う。
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