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 結婚式場の大理石の上をスーツケースを引きながら歩いていると、控室の喧騒から離れた窓際にシャンパンゴールドのタキシードを着た彼が立っているのが見えた。  海での別れ話から、一年。少し痩せたように見える横顔は、きっちりとセットされた髪型も手伝ってどこか知らない人のようで、私は少し、目を細める。  小中学校の同級生である桃香と、彼の名前が並んだ招待状が届いたのは二ヶ月前のことだ。私の肩書は「新婦友人」。桃香と付き合い始めたことも、結婚することも、彼は私に何の報告も寄越さなかった。 『――花嫁が来てないって、どういうことだ!』 『馬鹿にしているのか』 『隆一は何をやっているんだ!』  今しがた入口前を通った親族控室からは怒号が漏れ聞こえていた。無理もない。式の開始時間が迫る中、花嫁が式場に現れてすらいないのだ。  現れない花嫁を待つ彼はどんな気持ちでいるのだろう。何と声をかけるべきか迷いながら、落ちてきた前髪を耳にかける。
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