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04.
「まだかかりそう?」
二十三時をまわったオフィスは人の気配がなく、私の頭上の蛍光灯だけが煌々と明るく光っていた。部署の先輩である三つ年上の芦原さんは私のデスクの上に青いエナジードリンクを置くと、パソコンの画面を覗き込んで顔をしかめた。
「水上商事?」
「はい。明日往訪なんですけど、資料にリテイクくらっちゃって」
「……そうじゃなくて、この担当は熊澤じゃなかったっけ」
自販機から落とされたばかりの青い缶は冷たく、頬に当てると気持ちがよかった。
「今日は歯医者だそうで、定時に帰りました」
あのさあ、と芦原さんは固いため息をついた。
「教育係だからって、お母さんじゃないんだから。そこまで面倒見なくてもいいんだよ? ちゃんと、ケツ拭かせなきゃ」
「だけど、私も話は聞いていたし、それに」
悪いことを弁解するような口調になった私に、芦原さんは呆れたように肩を落とした。
「あずみちゃんは、いい子だねぇ」
「……いえ」
デスクの左側に置いてある一輪挿しのガーベラは、少し萎(しな)びてうなだれかけていた。
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