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1.そんな水曜日
朝のうちにラインを飛ばした指定通りのバス停に、息子は突っ立っていた。
まあなんて不機嫌な立ち姿。世の中全てにケンカを売ってるオーラすら見えて、早く愛車にピックアップしなければ。
「こんな派手な車、乗りたくねー」
聞こえないよーだ。
黙って助手席に乗りなさい。あんた車に乗れてありがたいと思いなさいよ?アキラなんてチャリしか持ってないんだから。
the反抗期が何たるかを身をもって目下学習中。感情的に言い返すのはこっちが消耗するだけ損だ。やめとこう。
皺も増えちゃうしー。
カーステの音量を上げると、セイヤは呆れたようにため息をつき、イヤホンで耳を塞いだ。
ついてきてくれるだけ、マシとするよ。
セイヤはおばあちゃんっ子だったから、言葉は無くても入院をこの子なりに気にかけてるに違いない。いい子だもん。優しい子。だよね?だったよね?
車を降りても会話はなく、病院の薄暗い夜間通用門にコツンコツンと私のヒールだけが響く。
そう夜遅くもない時間だけど、ちょっと不気味で緊張を醸す。独特の匂いがあって、それに夜の病院ってデソウジャナイ?
セイヤを振り返ったら、そういやセイヤは手を繋いでくれる年ではないな…と思った自分が頼りなくなった。
病棟ステーションで面会者名簿に記入する。新しいページの1行目に、
「片山メグ」
「片山セイヤ」
夜勤帯はナースの人数も少ないからだろう、みんなバタバタと素っ気なく、記名しながら緊張が増してしまう。
慣れない病院で慣れないシチュエーション。
病室前で待っててくれたアキラを見て、シャクだけどホッとしたのも事実だった。
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