百合

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大学近くの図書館で、俺は妹を待っていた。 高校三年生で、受験生になった妹。 たまに、こういうところで勉強を教えたりしている。 去年の春、俺は家を出て一人暮らしを始めた。 自炊などの家事は、母が鍛えてくれたから苦労はしなかった。 家を出るとき、しばらくは家族と会わずに一人でやっていこうと思っていたのに、妹が会いたいとせがんできた。 だから、とりあえず月一のペースで会ってやっている。 その妹を待ちながら本を読んでいると、図書館のドアが開いた。 わずかな期待を胸にドアのほうを見ると、入ってきたのは妹ではなく、一人の女性だった。 なんだ。 俺は肩を落として、また本に目を落とす。 前まで全く読書などしなかったが、最近になってその楽しさに目覚めた。 だが妹が来る前に読み終わってしまったので、俺は別の本を探そうと席を立った。 と、そのとき、さっき図書館に入ってきた女性を見かけた。 彼女が抱えている数冊の本が目に入る。 『色と配色がわかる本』『色の心理学』『配色デザイン見本帳』 色関係のものばかりだ。 デザイナーか何かをやっているのだろうか。 特に気には留めず、本探しに戻った。 最近はミステリーにハマっていて、お気に入りのミステリー作家の本を探す。 しゃがんで下の段を見ていたが、一番上の段に続いている本たちは読んでいなかったことに気づいた。 上の本を見ようと立ち上がったとき、 「あっ!」 頭に何かがぶつかった。 床に色々な物が落ちる音。 見ると、一つのカバンと、そのカバンから中身がピンク色のカーペットの上にぶちまけられていた。
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