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「ご、ごめんなさい! 気付かなくて。」
俺の頭の上で謝るのは、さっきの女性だった。
あわててカバンと中身を拾う彼女。
俺もすぐに手伝った。
一つ一つ確認しながら、カバンの中にしまう彼女。
「あれ、定期……。」
定期券がなかったのか、彼女はカーペットの上を手探りで探す。
視力の悪い人が眼鏡を探してるみたいだ。
おかしいな、定期ならそこにあるはずなのに。
彼女が探しているすぐ近くに、水色の定期入れが落ちている。
見えていないのだろうか。
俺は手を伸ばして、その定期を拾った。
下向きになっていた表面が見え、名前の部分が見える。
『モアイ イロハ』と書かれている。
珍しい苗字だな。
イースター島にあるモアイ像を思い出した。
なんて漢字なんだろう。
「これですか?」
「あっ、ありがとうございます! 本当に助かりました。」
別にそんな大したことしてないので、少し過剰なお礼に戸惑う。
そのとき、俺の背後に立つ人物がいた。
「兄者、何してんの?」
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