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2 突入
運河を渡るカゼが爽やかな朝だった。
俺はメトロから足早にウォーターフロントへ向かう。
途中、立ち止まって橋から運河を見下ろす、じっと目を凝らす。いたいた、ハゼの成長は上々、グッ。
水面に映り込む俺のカオ、丸メガネの後期中齢者。
なぜ俺が仕事帰りにハゼ釣りを始めたのか…。ボーナスが支給されたある晩、俺はおつまみにサバの缶詰をふたつ買って帰宅した。誇らしげに缶詰をバッグからとり出したとたんに、カミさんにお金の無駄遣いと激しく叱られた。それから、おつまみとしてハゼを釣ることを思いついた。通勤定期券の区間なら交通費も要らない。こうして俺はハゼ釣りのおかげで、家内安全、商売繁盛、お楽しみ の三位一体を手に入れた。
ありきたりだが、幼い頃はヒーローに憧れていた。舞台は国際宇宙ステーションでも、砂漠の戦場でも良かった。こんな無限ループはそろそろ終わりにする。いよいよ。
ターゲットを確認した。俺の戦場はこのガラス張りのビル、エモーショナル・ラボラトリー。数字と派閥の論理が全てにおいて優先される非情な領域、倒れた者はゼロカウントで重力に吸収される。
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