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「エモーショナル・ラボラトリー」では人工知能向けの感情エンジンを開発している。
「感情変位は画像と同じく単純な同次変換で表せる。」
という、画像系プログラマーの素朴な発想からこの会社のビジネスが始まった。
まるでカオ認識のように、元となる感情パターンの特徴不変性から精神状態を表現できる。その仮説を核医学界が最新のMRI装置を使って裏付けた。さらにスーパーコンピュータ「京の子孫たち」の多次元シミュレーターは、この精神活動を忠実に可視化することに成功した。以来、わが社の製品開発には「京の子孫たち」が不可欠となっていた。「京の子孫たち」の演算能力をもってすれば、この世界を描くことすらできるはずだ。
小さなベンチャーだったわが社は、いまやワールドワイドでも注目される大企業になった。CEOはメディアに決して自分のカオを見せない主義だった。こんな物騒な時代では実に賢明なポリシーといえる。そう考えれば社内でもカオを出さないのも、少々ミステリアスだが、うなずける面もある。
カオは見えなくても、CEOのコメントはまさに絶対権力であった。
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