海の香水

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 十人程入ったらいっぱいになる広さで、店にはコーヒーの香りが漂っている。飾棚には小さな値札のついた小物が飾られ、壁にはハガキ程の絵が幾つか飾られ、ラックには色とりどりのパンフレットや、名刺が並べられている。  どうやらここは若き創作者の作品の展示販売を行う喫茶店みたい。  気がつくと店員がふかふかのタオルを手に、店の奥からやってきた。 「ありがとう」  サキはコーヒーを注文し、立ったまま受け取ったタオルで水気をとりつつ、急いで訪問先に遅れるむねを伝えた。だが、今までの努力はまたたく間に水泡に帰した。 「ああ……」  サキは崩れるかのように席に座り込んだ。と、滑るようにテーブルに、コーヒーとケーキが目の前に置かれた。 「えっ、頼んでいませんが」 「サービスですよ。ごゆっくり」  立ち去る店員の背中に礼を言い、ため息をついてから上司に報告した。予想通りの言葉が耳に飛び込む。  ……ああ、帰ったら始末書だわ。肘をついてコーヒーを飲み、ケーキを一口食べた。口に広がる程よい甘さに心にしみた。  雨はまだ激しさが続く。すぐに帰れない状態であることに、ほんのすこし救われた。  着信の音に気づき、すぐさまアプリを開いた。彼氏から今日の夕方会えないか。の、誘いだった。サキは残業になるかもしれない。と、すぐさま返信を送り、間髪いれずにまた今度。の返信が書き込まれた。  ……ああ、ついていない、ついていない。     
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