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釣り場
俺は夜の暗い森の中を一人歩いている。さすがに街灯ひとつない、真っ暗な森を懐中電灯の頼りない光だけを頼りに歩くのは、たとえいい年をした大人でも怖いものだ。この森を抜ければ、昼間見つけた岩場に出るはずだ。
偶然営業で車を走らせて見つけた、絶好の釣り場。森を抜けると、象の鼻のように半島がぐるりと海を囲み、湾内は非常に凪いでおり、その半島の先には、小さな灯台がある。その灯台の下あたりで、大物を目にしたのだ。
つい最近、俺はこの小さな海辺の町に転勤になった。いわゆる左遷ってやつだ。自分の実績を考えると、会社に文句は言えない。所詮俺は、会社の歯車のひとつに過ぎない。動きの悪い部品は取り替えられるってわけだ。そんなことを一人考えながらも自嘲的な笑いが出た。
ようやく森を抜け、灯台の光が見えてきた。暗い海を二つの光がくるくると代わる代わる照らす瞬間のみ、そこが海であることを示し、まだ暗さに慣れてない目には空も海も境が無く、輝く星が途切れる場所が、ようやく水平線だと認識することができた。それほど、夜の海には濃い闇が流れている。
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