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しばらく歩いて、ようやく半島の先の灯台に着いた。クーラーボックスを灯台の下に降ろし、懐中電灯の光を頼りに釣りの仕掛けを作る。先に餌をつけ終わると、一気に竿を後ろに振りかぶり、真っ暗な海へ仕掛けをつけた針を投げ込んだ。かろうじて、ケミカルの入ったうきが上下し、波に揺られている。
正直、こんな田舎に左遷させられた時には、それなりにショックだったが、よく考えてみれば、こちらに来てからのほうが、随分と人間的な生活をしているような気がする。田舎は時間の進み方が違う。満員電車に揺られることもなく、エスカレーターの乗り方に気を使うこともないし、だいいち空気はうまいし、人も良い。出世からは遠ざかったが、いっそのこと、ずっとこの町で暮らすのも悪くない。こうして、のんびりと釣りなどする時間もできたのだから。最近の俺は、人生に随分と前向きになったような気がする。
釣りを始めて、一時間くらい経ったが、一向に釣れる気配が無い。やれやれ、今日は坊主かもな。そう思いながら、きっとボロボロになっているであろう、生餌を取り替えるために、竿を上げ、リールを巻いて糸を巻き取る。新しい生餌をつけると、できるだけ今度は遠くに投げる。
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