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また男は黙り込んでしまった。この男、ヤバイやつなのかもしれない。そう思うと、この状況が危険なような気がしてきた。このへんで納竿したほうが良いのかもしれない。
「僕も釣っていいですか?」
唐突に男が俺にそう尋ねた。なんだ、釣り場の下見かよ。はじめからそう言ってくれ。
「いいですよ。俺、竿をちょうど二本持ってきてるんです。餌も十分ありますから、どうぞ。」
同じ釣り仲間とわかると、俺は一気に男に心を開いた。どうもと男は竿を受け取ると、慣れた手つきで餌をつけると、これまた慣れた様子で、竿を振りかぶって仕掛けを投げた。
「俺、最近この町に越して来たんですよ。この町はいいですね。山も森も海もあって。自然に囲まれてて、最高ですよ。空気もうまいし、魚も美味い。」
俺の話に、男は答えるでもないが、うんうんと頭だけで頷いた。きっとこの男は無口なのだろう。俺は、必要以上に話すのもこの男の負担になってはならないので、しばらく黙って二人で海へと糸を垂らして、獲物がかかるのを待った。しかし、いつまで経ってもピクリとも竿の先が動かない。これは、もう今日は釣れないだろうな。そろそろ引き上げたい。男に告げて、竿を返してもらおうとしたその時だった。男の持った竿の先が大きく揺れて、うきがぐっと海の底に沈んだ。
「おっ!大物がかかりましたよ!」
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