釣り場

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 俺は、夕べの出来事を全て、その老人に話した。笑って一蹴されるだろうと思っていたが、老人は青ざめて、しばらくすると涙ぐんだ。 「不憫な子だよ。」  老人は、そう言うと、ぽつりぽつりと話し始めた。  老人の話によれば、つい最近、この灯台の下に水死体が流れ着いたと言う。その水死体は、時化に見舞われた漁師が沖で難破し、親子で漁をしていたのだが、親はなんとか無事泳いで陸にたどり着いたものの、息子は行方不明。三日後に変わり果てた姿で、灯台の下に打ち上げられたそうだ。その死体は、損傷が激しく、左足が無くなっていたそうだ。 「それじゃあ、俺の見た青年は・・・。」 「たぶん、そのせがれじゃな。」  俺は、全身に鳥肌が立った。彼は自分の体の一部を探して欲しくて、俺に釣竿を貸すように求めたのか。しかし、釣り上げたはずの左足は、どこにも無かった。  俺は、とりあえず、そこいらに放置している仕掛けと竿を仕舞い、家に帰ることにした。老人は、一人で帰れるのか、送ろうかと心配したが、俺も自分の車を駐車場に駐車しているので、乗って帰らなければならず、大丈夫だと丁重にお断りした。道具を全て、バッグに仕舞い、クーラーボックスを持ち上げようとした時だった。  何も釣れてないはずなのに、やけに重い。俺は、不思議に思い、クーラーボックスの蓋を開けた。     
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