スパークル

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スパークル

ちゃぷん、ちゃぷん。 耳元で、耳の穴に入りそうで入らない海水が、音を立てている。あたしはそれを感じながらも、とりたててそれを避けようともせずに、ただ受け入れる。ゆらゆらと身体を揺らす波が、心地よい。このままどこまでも、夜の闇にひんやりした海をたゆたうことも、それはそれで悪くない気がする。 ちゃぷん、ちゃぷん。 夜空には、数えるのも億劫になるほどの星が瞬いていて、その星の光が少し見えなくなったと思ったら、その輝きで夜空の中で一番の存在感を放つ、月が浮かぶ。別に海の上でそれを眺めているから…というわけではなくて、普段、街を歩きながら夜空を眺めた時にも同じことを思ったけれど、夜空はまるで、あたしたちが生きているこの世界の縮図のようにも思えてくる。そこまで考えたところで、あたしはそっと、目を閉じた。 ちゃぷん、ちゃぷん。 この世界には、あたし以外にも、数え切れないほど大勢の人が生きていて、一人ひとり、それぞれの人生がある。小さくてもきらりと輝く人もいれば、ある圧倒的な存在によって、誰にも見つけてもらえないような人もいる。圧倒的かつ絶対的な月の光に輝きを奪われた、小さな星のように。 ちゃぷん、ちゃぷん。 もしかしたら、そう考えているあたしも、そういう存在なのかもしれない。あたしの周りには、あたしよりも優れている人間なんてたくさんいるし、むしろあたしより劣る人間なんていただろうか。考えれば考えるほど、思いつかないのだ。そう思えば、あたしはきっと、あの月の光の陰に、ひっそりと瞬いているであろう、名もない小さな星なのだ。 ちゃぷん、ちゃぷん。 それでも、あたしは諦めたくない。なんといっても、北極星は地球から四三〇光年くらい離れているのに、あれだけ強く輝くのだ。一光年は、光が一年間で進む距離。つまり、四三〇年前の光が今、あたしの瞳に映し出されているのだと思えば、今すぐに結果なんか出せなくても、気に病むことなどない。たとえ時間が経っても、いずれあたしの輝きが、世界を照らすことができればいい。 ちゃぷん、ちゃぷん。 そう思うと、また、少しは頑張ってみようかという気持ちになる。 波にゆらゆら身体を揺らしながら、あたしはもう一度目を開けて、空を見上げた。
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