散想

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電話の向こうの西川さんが、声のボリュームを落として言った。 〈ほんでさ、笹川。……体調不良なんて、本当は全然そんなことねえんだろ〉 どうやら、予想通り、あたしのズル休みは見透かされていたようだった。 「バレましたか」 〈まあ、最近の笹川を見てたら、なんとなくわかるさ〉 他人は自分が思っているほど、自分のことを見ていないというけれど、本当のところはどうだろう。少なくとも、あたしは自分が思っていたほど、自分のことを見られていなかったわけではないらしい。 電話口の西川さんは、きっと今、苦笑いをしている。そんな声色だった。 〈そして、後ろからヒーリング効果のある音が聞こえるぞ〉 「あ、聞こえますか? いいでしょう、波の音」 〈いいねえ。どこまで行ってんだ〉 「ちょっと東の方まで」 〈東ってことは、網走くらいまで行ってるのかな〉 「ご名答です。……あ、ちなみにこのことは」 〈言うわけねえよ。でなきゃわざわざ地下書庫まで下りて電話なんかかけるか〉 どおりで後ろが静かだなと思っていたら、そういうことだったのか。 〈きっとそういうことだと思ったから、個人携帯からかけたんだ〉 「お気遣い、ありがとうございます」 〈ま、そういうわけでさ。…あんまり気負うなよ〉 「…えっ」 〈最近の笹川、しんどそうだからな。なんか困ったり手に余ることがあったら、いつでも声かけて〉 「西川さん…」 〈そんじゃな。はしゃいで海に飛び込んだりすんなよ〉 あたしの返事を待たずに、電話は切れた。
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