散想

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散想

どうして、こんなところに来てしまったのか。 今更、そんなことを考えてもどうにもならない。愚か者に権力と武器を持たせれば戦争になるのだろうが、あたしみたいな馬鹿にある程度の経済力を持たせても、結局はこういうことになるのだろう。いま、目の前にある現実を飲み込んでみたら、そんな感想しか浮かばなかった。 あたしの眼前には、どこまでも広がるオホーツクブルーの海が広がっている。視線をもう少し手前に移せば、JR釧網本線の線路が真横に走っていて、申し訳程度のプラットホームと、遠巻きに見れば廃屋にしか見えないような駅舎が建っている。駅舎の横には、建物の二階くらいの高さがある展望台がつくられていて、あたしはそこに腰掛けながら、ただぼんやりと海を見ていた。 あたしはつい昨日まで、普通に札幌のオフィスで働いていたはずなのだけれど、いつの間にかこんなに移動していた。突然、昨日の残業の帰り道に「海が見たい」という気持ちが抑えられなくなってしまった。しかも遠くであればあるほどいい。そんな自分の気持ちに正直に応えた結果が、今のこのシチュエーションである。 この風景を、ずっと見たいと思っていた。もともと旅行が好きなあたしは、ガイドブックを眺めながら溜息をつくことも多かったので、まさかこんな形でそれを実現させることができるとは思っていなかった。事実、さっき駅舎の中にある喫茶店で食べたランチは美味しかったし、さざ波の音を聞きながら、海側からゆるく吹いてくる風に髪を揺らすのは、まるでドラマのワンシーンの中に自分が溶け込んでいるような感覚さえある。 それなのに、心にまで、冷たい潮のにおいを含んだ風が吹き込んでくるのは、どうしてなのだろう。 人並みに勉強をして、就職活動を経て、いざ社会人になってみれば、何かが見えてくるのだろうと思っていたのに、あたしはただ、毎日をルーティンワークのように繰り返しているだけだ。起きて、会社に行って、帰ってきて、眠る。この繰り返しだけで、やがて年老いて死んでしまってもいいのだろうか。 ずっとそう考えてきたけれど、あたしはその問いに対して、明確な回答を持ち合わせていない。
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