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闘技場は熱気に包まれていた。
周囲をぐるりと観客席に囲まれた楕円形のバトルフィールドでは、二体のモンスターが接戦を繰り広げている。
白銀の竜。
虎に近い外見の、巨大な獣。
どちらも『テイマー』に従う使役獣だ。
その日はテイマーの実力を競う大会の決勝戦だった。それぞれの使役獣を戦わせ、どちらが優れたテイマーか決める。そういうイベント。
大掛かりで、いろんなところからたくさんの人が見物にやってくる。国内全土を探してもこれ以上に盛り上がる催しはないぞと父親に焚きつけられた僕は、そのお祭り騒ぎの渦中にいた。
竜が目もくらむような灼熱の息吹をまき散らせば、獣も負けじと大地を割るほどの咆哮を叩きつける。フィールドはその人智を超えた戦闘の余波でめちゃくちゃに荒れ、攻防の一つごとに観客席から大歓声が巻き起こる。
僕はといえば、観客席の最前線でかじりつくようにしてその光景を凝視していた。
視線の先には二体のモンスター。
竜の、獣の、一挙手一投足に目を奪われる。
「どうだ、ラタ。なかなか見ものだろ?」
「……」
「なあ、ラタ。楽しんでるか?」
「……」
「おお、竜種のブレス、とんでもない威力だな。あのテイマーはやり手みたいだ。そうは思わないか、ラタ?」
「……」
「ラタ、どっちが勝つとーー」
「ちょっと静かにしてて」
視線はフィールドに注いだまま、隣に座る父親の言葉をぶった切る。
今はそれどころじゃない。
「……すまん」
しゅんとする父親に少しだけ申し訳なさを感じなくもないけど、このときの僕に他ごとに割く余裕はまったくなくて。
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